ほんとに時間がないのでSSだけうp
そのうちサイト内を改装したいです
記念SSも書きたいですし
以上っ!!
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「しかし六課の隊舎ってのは広いな」
六課に到着したアルフはその広さに少々面食らっていた。
何しろどこにこんな土地があったのだという程の敷地面積だ。
内部の地理に疎い者が入り込んだらまさに迷宮。地図なしでの行動は命取りになりかねない。
しかしこんな道に迷うような不審者を簡単に敷地内に入れてもいいのだろうか。
セキュリティとかしっかりしているのか若干怪しいものだ。大丈夫か機動六課。
隊舎内の構造は似たりよったりで、どこを歩いても同じような部屋や無機質な壁が広がってる。先を見渡しても目印になりそうな物が見当たらなかった。
そして先程から同じところを何回も通過し、何度も辺りを見回しながら歩いている不審者が約一名。
これはもしや――
脳裏に嫌な単語がちらついた。
「迷子か……」
何て情けない話だろう。
忘れ物を届けに行く道中で迷子になるならわからなくもないが、届け先で当てもなく彷徨っていては何しに来たかわからないではないか。
アルフは必死に考えた。何か解決策はないかと。
人にフェイトの居場所を尋ねるか。いや、それはだめだ。
そんなことをしたらフェイトの使い間はろくにお使いも出来ない等という良からぬ噂が立ちかねない。
そうなっては六課を担う隊長としてのフェイトの顔に泥を塗ることになってしまう。
それでは部下達に示しがつかないではないか。
では一体どうするか。
今の自分に何が出来るのだろうか。
「――でさ、大変なんだよ」
ふと近くを通りかかった局員の会話が聞こえてきた。あまりにも集中して悩んでいたために人が通ったのに気が付かなかったようだ。
「何か大変なのか?」
話題を振られた一人が訊ねた。
「いやー最近さ、鼻詰まりがひどくてな。もう寝苦しくて大変なんだ」
「なんだそれで最近訓練中も寝むそう――」
なんだそんなことか、と大して興味深い内容ではなかったので、途中で聞き耳を立てるのを止めた。
「鼻詰まりねー」
色々大変だなー、と再び当てもなく歩き出そうとする。
(ん? 鼻詰まり?)
がしかし、一歩踏み出した時点でアルフの動きが止まる。
(鼻……)
妙に引っかかる「鼻」という単語。何故気になるのか、そして何でこの程度のことで立ち止まっているのだろうか。
「あー! 鼻だーーっ!!」
アルフは突然大声を上げた。
そして気が付いた。一体何に引っかかっていたのか。
そして「鼻」という単語の意味。
アルフは自分の素体が狼であることを思い出した。そして狼にあって通常の人間には持っていないものを。
「匂いを辿ればいいんじゃないか」
狼の鼻は人間のそれとは比べようもない程敏感である。したがって特定の匂いを嗅ぎ分けて探し当てるなど造作もないことだ。
何故気が付かなかったのか。
アルフは平和ボケしてすっかり狼素体であることを忘れていた自分を責めた。
しかし責めたところで事態は進展しない。大切なことはこれからどうするかである。一刻も早くフェイトを探し出すことだ。
アルフは早速行動を開始する。問題は元となる匂いである。
手に持っているファイルに視線をやったが、すぐに諦めた。
いくらフェイトが触った物であっても時間が経ち過ぎており、アルフ自身も持ち運ぶ間にずっと触れていたため、ほとんどあてにはなりそうもなかった。
何よりも元となるのに適しているのは本人が常日頃から使用している物であったり、普段身につけている物である。
しかしそう考えると今の現状で当てはまりそうなものは生憎持っていない。
さて、どうしたものか。
やはり最後に信じられるものは己自身。
「思い出すんだっ! フェイトの香りを!!」
気合いを入れて記憶の糸を手繰り寄せる。
ここ数日で最も接近して匂いを嗅いだのはいつだ?
その時の香しさを思い出すんだ!
「――そうだ! 朝フェイトの胸に飛び込んだ時」
確かに最も接近したのは今朝の出来事であろう。というより胸に飛び込んだのだから間違いなく超接近している。正確には飛び込んだのではなく突っ込んだのだが、そんな違いは些細なことだ。
あの時のフェイトの体全体から発するやわらかな匂い。
あの時の髪の毛から漂う甘い香り。
あの時のフェイトの胸の柔らかさ――は関係ないか。
「来てるっ、来てるぞー!」
アルフはついに前進し始めた。どうやらフェイトの香りを明確にイメージできたようだ。
「こっちか、こっちのほうなのかー!」
長い廊下を進み、曲がり角をいくつも曲がっても、いっこうに歩く速度は落ちずに、迷うことなく突き進んでいく。歩く速度も徐々に速くなり、仕舞いには走り出した。
「こっちから匂うぞー」
一心不乱に目的地を目指す。フェイトを見つけるのも、最早時間の問題だろう。
「こっちから、カレーのいい匂いがするぞぉおお」
違うだろ。目的地を履き違えたままアルフは止まることなく加速していく。
アルフまっしぐらである。
辿り着いた先はもちろん食堂。
時刻はもうじきお昼時ということもあり、局員達で賑わっている。
アルフは迷うことなくカレーを購入。
「いただきまーって何してんだあたしはぁあああ」
怒りにまかせてカレーにがっついた。結局注文したカレーは食べるのだ。だってもったいないじゃん。
カレーを頬張りつつも本来の目的を思い出す。
「フェイトさーん」
そうそう、フェイトを探してるんだ。ってあれ、今何て言った?
「エリオ、キャロ。こっちだよ」
「ちょっと待ってよエリオ君」
うぇええええフェイトーー!?
「ごほっ、ごほっ!」
動転したアルフはカレーを喉に詰まらせた。
なんとフェイトは食堂にいたのだ。しかもエリオとキャロまで一緒である。
結果オーライ、終わりよければすべてよし。
「なんだフェイトいるじゃんか、ファイル渡して本日の任務完了ってとこだな」
アルフはフェイトに持ってきた物を渡しに行こうとして躊躇ってしまった。
楽しそうだったのだ。
フェイトがエリオとキャロの三人で食事をしている。
ただそれだけのことなのに、いたって普通の光景のはずなのに。だが、とても他人が入り込める余地なんてありそうもない。
アルフはただその光景を遠巻きに眺めることしか出来なかった。
フェイトは終始笑みを絶やさない。本当に自然と笑みがこぼれている。
家ではあんな表情をしていただろうか。あんな笑顔は見たことがなかった。
とてもやわなかな笑顔は、フェイトが家では見せない表情であり、それが何故かひどく哀しかった。
そしてそんなフェイトの気持ちを受け止める、エリオとキャロの満たされた笑顔。
彼女たちの笑顔はアルフには眩し過ぎた。
時に眩しいものは周囲を明るく照らし過ぎる。
照らされた者には当然影が出来てしまう。
アルフは照らされ過ぎてしまい、心に影が出来てしまったのかもしれない。
フェイトの表情はなんだか見ていて羨ましかった。家では自分に対してあんな風に笑ってはくれないのだ。
胸の辺りがちくりとした。
胃がむかむかとし、次第に胸の辺りがざわつき始めた。
これ以上は見ていられない。
居たたまれなくなったアルフは、ファイルを渡すことも出来ずにその場から逃げる勢いで食堂を飛び出した。
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